◎Ultraはウシトラのモジリ◎       


by うるとら

日本書紀 巻第六

五十瓊敷命

 三十年の春正月の己未の朔甲子に、天皇、五十瓊敷命・大足彦尊に詔して曰はく、「汝等、各々願しき物を言せ」とのたまふ。兄王詔さく、「弓矢を得むと欲ふ」とまうす。弟王詔はく、「皇位を得むと欲ふ」とまうしたまふ。是に、天皇、詔して曰はく、「各情(みこころ)の随にすべし」とのたまふ。即ち弓矢を五十瓊敷命に賜ふ。仍りて大足彦尊に詔して曰はく、「汝は必ず朕が位を継げ」とのたまふ。
  三十二年の秋七月の甲戌の朔己卯に、皇后日葉酢媛命一に云はく日葉酢根命なりといふ。薨りましぬ。臨葬らむとすること日有り。天皇、群卿に詔して曰はく、「死に従ふ道、前に可からず、いふこと知れり。今此の行の葬に、奈之為何(いかにせ)む」とのたまふ。是に、野見宿禰、進みて曰はく、「夫れ君主の陵墓に、生人を埋み立つるは、是不良し。豈後葉(あにのちのよ)に伝ふること得む。願はくは今便り事を議りて奏さむ」とまうす。則ち使者を遣して、出雲国の土部壱佰人(はについちももひと)を召し上げて、自ら土部等を領(つか)ひて、埴(はにつち)を取りて人・馬及び種種の物の形を造作りて、天皇に献りて曰はさく、「今より以後、是の土物を以って生人に易えて、陵墓に樹てて、後葉(のちのよ)の法則とせむ」とまうす。天皇、是に、大きに喜びたまひて、野見宿禰に詔して曰はく、「汝が便議、寔に我が心に洽へり」とのたまふ。則ち其の土物を、始めて日葉酢媛命の墓に立つ。仍りて是の土物を号けて埴輪と謂ふ。亦は立物と名く。仍りて令を下して曰はく、「今より以後、陵墓に必ず是の土物を樹てて、人を傷りそ」とのたまふ。天皇、厚く野見宿禰の功を賞めたまひて、亦鍛地(かたしところ)をたまふ。即ち土部の職に任けたまふ。因りて本姓を改めて、土部臣と謂ふ。是、土部連等、天皇の喪葬を主る縁なり。所謂る野見宿禰は、是土部連等が始祖なり。

  三十四年の春三月の乙丑の朔丙寅に、天皇、山背に幸す。時に左右奏して言さく、「此の国に佳人有り。綺戸辺(かにはたとべ)と曰す。姿形美麗し。山背大国の不遅が娘なり」とまうす。天皇、玆に、大亀、河の中より出づ。天皇、矛を挙げて亀を刺したまふ。忽ちに石に為りぬ。左右に謂りて曰はく、「此の物に因りて推しはかるに、必ず験有らむか」とのたまふ。仍りて綺戸辺を喚して、後宮に納る。磐衝別命を生む。是三尾君の始祖なり。是より先に、山背の苅幡戸辺を召したまふ。三の男を生む。第一を祖別命と曰す。第二を五十日彦命を曰す。第三を胆武別命曰す。五十日足彦は、是石田君の始祖なり。
  三十五年の秋九月に、五十瓊敷命を河内国に遣して、高石池・茅渟池を作らしむ。
  冬十月に、倭の狭城池及び迹見池を作る。
  是歳、諸国に令して、多に池溝を開らしむ。数八百。農を以って事とす。是に因りて、百姓富寛ひて、天下泰平なり。
  三十七年の春正月の戊寅の朔に、大足彦尊を立てて、皇太子としたまふ。
  三十九年の冬十月に、五十瓊敷命、茅渟の菟砥川上宮に居ましまして、剣一千口を作る。因りて其の剣を名けて、川上部と謂ふ。亦の名は、裸伴 裸伴、此をば阿箇播娜我等母(あかはだがとも)と云ふ。 と曰ふ。石上神宮に蔵む。是の後に、五十瓊敷命み命せて、石上神宮の神宝を主らしむ。 一に云はく、五十瓊敷皇子、茅渟の菟砥川上宮に居まします。鍛名(かぬちな)は河上を喚して、太刀一千口を作らしむ。是の時に、楯部、倭文部、神弓削部、神矢作部、大穴磯部、泊橿部、玉作部、神刑部、日置部、太刀佩部、扞せて十箇の品部(とものみやつこ)もて、五十瓊敷命に賜ふ。其の一千口の太刀をば、忍坂邑に蔵む。然して後に、忍坂邑より移して、石上神宮に蔵む。是の時に、神、乞して言はく、「春日臣の族、名は市河をして治めしめよ」とのたまふ。因りて市河に命せて治めしめむ。是、今の物部首が先祖なり。

  治世八十七年春二月、丁亥の朔辛卯、五十瓊敷命、妹大中姫に謂りて曰はく、「我は老いたり。神宝を掌ること能はず。今より以後は、必ず汝主どれ」といふ。大中姫命辞びて曰さく、「吾は手弱女人なり。何ぞ能く、天神庫に登らむ」とまうす。神庫、此をば、保玖羅(ほくら)と云ふ。五十瓊敷命の曰はく、「神庫高しと雖も、我能く神庫の為に梯を造てむ。豈庫に登るに煩はむや」といふ。故、諺に曰はく、「天の神庫も樹梯の随に」といふは、此其の縁なり。然して遂に大中姫命、物部十千根大連に授けて治めしむ。故、物部連等、今に至るまでに、石上の神宝を治むるは、是其の縁なり。昔丹波国の桑田村に、人有り。名を甕襲(みかそ)と曰ふ。則ち甕襲が家に犬有り。名を足往(あゆき)と曰ふ。是の犬、山の獣、名を牟士那といふを咋ひ殺しつ。則ち獣に八尺瓊の勾玉有り。因りて献る。是の玉は、今石上神宮に有り。
 
  八十八年の秋七月の己酉の朔戊午に詔して曰はく、「朕聞く、新羅の王子天日槍、初めて・・・・・・ 

―新羅の王子、天日槍の説話につづく―







  日本書紀(二) 岩波文庫 
  校注  坂本 太郎・井上 光貞・家永 三郎・大野 晋 
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by ultramal | 2006-07-30 02:20 | 古事記・日本書紀